手形上の責任について|変造・白地式裏書・遡求権の問題をわかりやすく整理する
今回は、 手形上の責任 について、具体的事例をもとにわかりやすく整理する。
事案では、振出人Aが約束手形を振り出し、受取人Bが 白地式裏書 をしたうえで使用人Dに交付したところ、Dがこれを無断で持ち出し、さらに満期日の記載を 平成14年5月31日から平成14年6月30日へ書き換え たうえ、自ら第2裏書人として署名し、Eに譲渡している。
その後、Eが平成14年7月1日に支払呈示をしたが、Aは支払を拒絶した。ここで問題となるのは、 EがBに対して手形上の責任を追及できるか 、また EがDに対して手形上の責任を追及できるか である。
事案の概要
まず事実関係を整理すると、次のようになる。
Aは平成14年4月1日、Bに対し、同年5月31日を満期日とする約束手形を振り出した。Bは同年4月10日、この手形に 白地式裏書 の方式で署名し、Cに交付するため使用人Dに託した。
しかしDは、無断で満期日を 平成14年6月30日 に書き換えたうえ、Cに交付しないまま、平成14年6月10日、自ら第2裏書人として署名し、これをEに譲渡した。そしてEは平成14年7月1日にAへ支払呈示したが、支払を拒絶された。
このような事案では、手形の 形式的資格、 善意取得、 変造の効力、 遡求権保全 などが問題となる。
1 EはBに対し手形上の責任を追及できるか
最初に考えるべきは、Eが 形式的資格者 としてBに対し遡求できるかという点である。
手形の所持人が形式的資格者と認められるためには、 裏書の連続する手形を所持していること が必要である。ここでいう裏書の連続とは、受取人から最終の被裏書人に至るまで、各裏書が外形上間断なくつながっていることを意味する。
そして、裏書の連続の有無は、 手形取引の安全 を確保するため、実質ではなく 外形的・形式的に判断 される。本件では、Bの白地式裏書の後にDの裏書が続いているため、形式的には裏書は連続しているとみることができる。白地式裏書であることも、この点に影響しない。
したがって、Eはひとまず形式的資格者としてBへの責任追及を主張できるように見える。
B側からの反論① Eは権利を取得していないのではないか
これに対しBは、第一に、EはそもそもBに対する手形上の権利を取得していないと主張することが考えられる。
確かに、DはCに交付すべき手形を無断で流用しており、 無権利者 である。そのため、原則としてEは無権利者Dから手形上の権利を承継取得することはできない。
もっとも、手形取引の安全のため、EがDの無権利について 善意・無重過失 であれば、手形上の権利を 善意取得 できる余地がある。したがって、この点だけで直ちにEの請求が否定されるわけではない。
B側からの反論② Eは遡求権を失っているのではないか
Bのより重要な反論は、 Eが遡求権を失っている という点である。
本件では、Dが満期日を「平成14年6月30日」に書き換えているが、Bは変造前に署名した者である。そのため、Bとの関係では、手形の満期は 変造前の記載どおり平成14年5月31日 と考えるべきである。
なぜなら、変造前に署名した者に対し、変造後の文言についてまで責任を負わせる理由はないからである。変造前に署名した者は、あくまで 変造前の文言の範囲でのみ責任を負う と解される。
すると、Eが実際に支払呈示したのは平成14年7月1日であるから、Bとの関係では 満期日経過後 の呈示となる。これは適法な支払呈示期間内の呈示ではなく、遡求権を保全する効力を持たない。
したがって、EはBに対する 遡求権を失っている といえる。
小括 EはBに責任追及できない
以上より、Eは外形上は形式的資格者としてBに対する責任追及を試みることができるものの、Bとの関係では満期は変造前の 平成14年5月31日 であり、平成14年7月1日の呈示は遅すぎる。
その結果、EはBに対する 遡求権を失っている ため、 Bに対して手形上の責任を追及することはできない という結論になる。
2 EはDに対し手形上の責任を追及できるか
次に、EがDに対して手形上の責任を追及できるかを検討する。
ここで重要なのは、 変造した本人であるDとの関係では、満期は変造後の平成14年6月30日となる という点である。
Dは自ら書き換えた文言に基づいて手形に関与している以上、Dとの関係では変造後の文言に従って責任を負うべきである。そうすると、Eが平成14年7月1日にした支払呈示は、Dとの関係では 支払呈示期間内の呈示 とみることができる。
したがって、この点だけを見ると、EはDに対して遡求権を保全しており、Dに対する責任追及が認められそうに見える。
問題となるのはDの前者Bが責任を負わない点である
もっとも、ここでさらに問題となるのは、Dの前者であるBが前述のように手形上の責任を負わないことである。
もし前の裏書人Bが責任を負わないのであれば、その後の裏書人であるDも影響を受けて責任を負わないのではないかが問題となる。ここで検討すべきなのが、 手形行為独立の原則 である。
手形行為独立の原則は裏書にも及ぶか
手形行為独立の原則とは、各手形行為の効力は原則として独立に判断され、前者の無効や責任の不存在が後者に当然には影響しないという考え方である。
もっとも、この原則は本来、 債務負担行為 に関して問題となるため、 権利移転に関する裏書 にも適用されるかが論点となる。
しかし、手形行為独立の原則の趣旨は、 手形取引の安全を確保すること にある。そして、裏書に担保責任が認められるのも、まさに手形流通の安全を図るためである。
そうであるならば、裏書についてこの原則を認めなければ、手形取引の安全という制度趣旨を十分に達成できない。したがって、 裏書にも手形行為独立の原則は適用される と解するのが妥当である。
ただし悪意者には保護が及ばない
もっとも、手形行為独立の原則は手形取引安全のための 政策的保護 である以上、その保護に値しない者には適用されないと考えるべきである。
すなわち、 悪意者 に対してまでこの原則を適用して保護する必要はない。本件でも、Eが善意であるかどうかが重要になる。
EがDの無権利や変造について 善意 であれば、手形取引安全の観点から保護する理由がある。その場合には、Bが責任を負わないとしても、Dは独立に責任を負うことになる。
小括 Eは善意であればDに責任追及できる
以上より、本件ではDとの関係では満期が 平成14年6月30日 とされるため、平成14年7月1日の呈示は適法な支払呈示期間内のものとなる。
さらに、裏書にも手形行為独立の原則が及ぶと解すれば、前者Bが責任を負わないことは、直ちにDの責任を否定する理由にはならない。
したがって、 Eが善意であるならば、Dに対して手形上の責任を追及することができる という結論になる。
結論
本件の結論をまとめると、次のようになる。
第一に、Eは形式的資格者として一応Bへの責任追及を主張しうるが、Bとの関係では満期は 平成14年5月31日 のままであり、平成14年7月1日の呈示は遅すぎるため、 遡求権を失っている。 したがって、 EはBに対して手形上の責任を追及することはできない。
第二に、Dとの関係では、D自身が変造した文言に従い満期は 平成14年6月30日 と扱われるため、平成14年7月1日の呈示は期間内である。さらに、裏書にも手形行為独立の原則が及ぶと解すれば、前者Bの責任不存在はDの責任を当然には左右しない。
よって、 Eが善意である限り、Dに対しては手形上の責任を追及することができる と結論づけられる。

